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地域再生・地域振興

緊急アピール 鞆のまちづくりに支援を
『トンボの眼』8号より

毛利和雄  ジャーナリスト

鞆の町並み、常夜灯、鞆港

 2月25日の日曜日に、今年で5年目を迎える「町並ひな祭」でにぎわう福山市鞆を訪ねた。店先や歴史民俗資料館に江戸時代以来の雛人形が並び、訪れるひとびとの目を楽しませていた。今回は、国立歴史博物館の小野正敏教授を代表とする中世の共同研究のグループに同行しての鞆訪問だった。一行は、寺院の境内にある五輪塔など石造物の研究をするのが目的だが、私が埋立て道路橋の問題で緊迫している鞆の情勢を伝えると、この美しい町に何故そのような公共工事が必要なのかみんな驚いていた。

 さて、その埋立て道路橋の問題については、この紙面を借りてこれまで2度訴えてきた。(「世界遺産と鞆の道路橋計画」第3号、「水辺の都市―鞆のまちづくり」第4号)推進派の住民総決起集会が年明けの1月20日に開かれ、そのときも取材に出かけてきた。席上、福山市の羽田皓市長は、2007年度のできるだけ早い時期に鞆港の埋立て申請を県にしてもらい、年度内の着工をめざす意向を表明した。それを受けて広島県も、住民に説明会を開き、反対意見も多いにもかかわらず、申請に必要な境界画定の測量を1月25日に実施した。2007年度予算案に県と市が共同で5500万円の予算をつけた。埋立てに伴って希少種のスナガニを移す浜を養成し自然保護のもとで工事に取りかかるというのだ。このように、埋立て道路橋の計画は次々と実行にむけて準備が進められている。

鞆、町並ひな祭(ポスター上部の写真は大正時代の頃の鞆港

 このまま手を拱いていると江戸時代以来の歴史的な港湾施設がセットとして残っている瀬戸内唯一の港町で、朝鮮通信使も「日東第一景勝」と感嘆した鞆の景観が失われてしまうことになる。景観や歴史遺産は、住民だけのものではない。公共的な財産だ。それが証拠に、古都保存法制定40周年を記念した「美しい日本の歴史的風土100選」に、鞆は近くにある尾道と並んで選ばれた。(広島県からは、他にも「世界遺産」に登録されている「原爆ドーム」と「厳島神社」、呉市の「旧海軍の建築群」、「豊町御手洗」が選ばれた。)選定記念フォーラムが3月2日に東京で開かれ、選定委員の建築史の陣内秀信・法政大学教授と京町屋の再生に取り組むアレックサカーさん、それに私が、それぞれ鞆の歴史的港湾や町並みが形成する景観、そうした景観を備えた鞆の重要性を訴えた。

「住民の会を支援する会」記者会見

 地元でも、埋立て道路橋に反対し、港の風景と町並みの全体を受け継ぎ、魅力的で活力ある地域社会の再生をめざして研究や実践を重ねてきた住民団体が結束して「鞆の世界遺産実現と活力あるまちづくりをめざす住民の会」を結成し、埋立て申請の免許を阻止するための行政訴訟を起こすことになった。こうした動きに全国的な支援の輪をひろげようと映画監督の大林宣彦監督や陣内秀信教授、アレックスカーさんなどが呼びかけ人になって「住民の会を支援する会」を結成した。その記者発表が3月16日に東京で行われた。席上、尾道出身の大林監督が、「@」と鞆のまちの保存を訴えた。

 実は私も尾道の出身だが、最近おじの遺品をたまたま整理していて昭和初期のものと見られる鞆のスケッチ帖がみつかった。そこに描かれている鞆港や瀬戸内に浮かぶのはすべて帆掛け船なのに驚いた。鞆を訪ねていただければわかるが、その小さな港は帆掛け船以来そのままの歴史的港湾施設が残されており、それにふさわしくヒューマンスケールなまちで人々の日常が営まれている。したがって、そこを訪れるひとびとが懐かしい過去に接し、癒しのたびを実感できるわけである。

鞆港に浮かぶ帆船デッサン

 埋立て道路橋推進派の人々にとっては、それは懐かしい過去ではなく不便な過去を引きずった日常と捉えられているようである。しかし、埋立て道路橋が仮に実現しても町中に入り込む通過交通量は増えるわけだから、交通事故の増加が心配される。住民の車はこれまでの狭い道路を使ってまちを出入りしなければいけない状況は変わらない。それよりも山側にトンネルを作って通過交通をさばいたほうが適切だろう。しかも推進派の人たちが唱えている、流出していった人々が戻ってきて活気のある町が蘇るというのは幻想ではないだろうか。尾道は「しまなみ海道」が整備され、公共投資がずいぶん行われた結果、街はこぎれいになったが、それでも人口呼び戻しまでの効果はない。逆に海岸に見られた階段状の雁木など歴史遺産は多くが失われた。

 人口減少、少子高齢化が進むこれからの日本において歴史都市に必要なことは、歴史遺産を活かしたまちづくりであり、それに惹かれて訪れる観光客、長期滞在し、場合によっては移住してくる人々が出てくるかどうか、それによって他所の人々と町の人々の交流がいかに深まるか、つまり交流人口の増大をめざすことではないだろうか。現に鞆では空き家再生事業によって飲食店や創作土産店、カフェなどが次々と開店し、温かくお客を受け入れているし、地元の年配者がそうした店で談笑しながら酒を酌み交わしている姿も見られる。

 今問われているのは、「景観」か「利便性」かという二項対立ではなく、まちづくりのあり方だと思われる。したがって、私は「埋立て道路橋に反対し、港の風景と町並みの全体を受け継ぎ、魅力的で活力ある地域社会の再生」をめざす住民の会を支持している。

 こうした思いは、私一人ではないはずだ。読者の皆様に、ご支援を呼びかける次第である。