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地域再生・地域振興

世界遺産と地域再生

毛利和雄  ジャーナリスト

 本誌で何回も取り上げてきた瀬戸内の歴史的港湾、福山市鞆港の埋立道路橋問題と福山城の保存問題は、いずれも正念場を迎えた。それらの問題の解決を願って拙著『世界遺産と地域再生―問われるまちづくり』を上梓した。

 鞆港の埋立道路橋問題は、広島県が埋立免許の前提となる認可申請を国交省に6月23日にした。国会で取り上げられるのをさけるため道路特定財源問題が一応決着し通常国会が終了したのを待っての申請だ。同日記者会見した広島県の幹部は、「鞆の衰退を防ぎまちの活性化をはかるために埋立架橋を促進したい」と述べた。しかし埋立道路橋は、朝鮮通信使が「日東第一形勝」と讃えた歴史的景観を損なう上、港に出て憩える生活を奪い、癒しの旅を求めて訪れる観光客にも大きな影響を与えるのに、なぜまちの活性化につながるのか大きな疑問が残る。まさにまちづくりのあり方が問われているのである。

 一方、JR福山駅前の地下送迎場整備工事で確認された福山城の外堀の石垣保存に関して保存運動を展開している市民が、文化財破壊の工事は公金の不当な支出だとして6月26日に監査請求した。市民側は請求が認められなければ訴訟を起こす構えで、もしそうなれば福山市は鞆の埋立道路橋、福山城の保存問題と歴史遺産の保護に関して二つも訴訟を抱える異例の事態を迎える。

 おりしも8月10日は福山市長選挙。市民派の対立候補の出現にあわてたのか福山市長は福山城の石垣保存に方針転換を表明したが、真の意味の保存かどうか疑問が残る。福山市民はどのような審判を下すのであろうか。

 歴史遺産を活かしたまちづくりが全国的に注目を集め、市町村によるまちづくりを支援しようと「歴史まちづくり法」が、与野党対立で“ねじれ国会”の弊害が指摘されるなか、全会一致で成立した。合わせて広域観光圏の成立を支援する「観光圏促進法」も成立した。まちづくりとは、地域の活性化とは何かが模索されている。

 ところで世界遺産と聞くとまず思い浮かべるのはエジプトのピラミッドや中国の万里の長城など“驚きの過去”を象徴する歴史遺産ではないだろうか。しかし、世界遺産は、1992年にグローバルストラテジーが打ち出され人類と自然が統合した「文化的景観」の概念が設定されたこともあって、農林漁業が営まれている農山漁村や、伝統的集落や歴史都市など現にそこで住民が生活している「リビングヘリティジ」が登録される例が増えてきている。

 そうした世界遺産の動向を踏まえて、全国の多くの道府県が世界遺産を目指している日本の現状を振り返ってみると、単に世界遺産ブームというだけではなく、もっと大きな意味を見いだせるのではないか。というのは、人口減少、少子高齢化が進む中、東京と地方の格差が進み、“地域再生”が日本にとって大きな課題になっているからだ。

 そこで50年にわたる住民のまちづくりの中から世界遺産を実現させた島根県大田市の石見銀山、ことしの世界遺産登録は延期となり再挑戦をめざす平泉、試行錯誤のまちづくりを進めてきた尾道、そして国際的なNGOイコモスが世界遺産級の価値があるとして埋立架橋計画を中止すべきと勧告している鞆の浦を訪ね、住民によるまちづくりと世界遺産とのかかわりを探ったのが拙著である。

 多くの皆様に読んでいただいて今後の日本のあり方を考えるとともに危機に瀕している鞆の世界遺産訴訟への支援と埋立架橋計画のみなおし、朝鮮通信使の道の世界遺産の実現に御支援いただくことを切にお願いする次第です。